2007年07月31日

落ちない落ちない

今年はまだ怪談をやっていなかったので、遅ればせながら一席打たせてもらいましょう。

あるデザイン事務所に勤めるKさんという女性から聞いたお話。
Kさんの事務所は、雑居ビルの3階と5階に分かれています。別にそのビルが縁起を担いで4階を5階と呼んでいる訳ではなくて、もともとは3階のワンフロアーだけでやっていたのが、業績が伸びて人が増えたためにもうワンフロア必要になったのだけれど、その時には4階に別の会社が入っていたので、やむなく5階を借りたと言う、ちょっと間の悪い事情があっての事らしいです。
そういうわけで、Kさんの事務所は3階に受付と営業と社長室を設けて、5階がデザイナー室と休憩室兼更衣室という具合に振り分けられました。
Kさんは営業なので、3階に自分の机があります。
営業の人たちは元気ですから、日中はワイワイとウルサイのですが、5階はいつ行っても静かな雰囲気で、せいぜい有線放送の音楽がかかっているくらいで、騒いでいる人が少ない。デザイナーに限らず、モノを創る人種には何だかんだと独り言を言ったりするタイプが多いのですが、ここにいるデザイナーたちは割と大人しいそうです。
ただ、そのデザイナーの中で一人、Rさんという若い男性だけは、クリエイターにありがちなうるさいタイプ。鼻歌を歌ったり、失敗したー!とか、出来たー!とか、いちいちうるさい。時々、必要以上に大声になってはみんなから怒られたりするそうです。
そんなRさんにいつも小言を言っていたのが、事務所の古株のSさんだったそうです。Sさんは事務所が立ち上がったときからのメンバーで、いわば社長の右腕。社長と苦楽を共にして、事務所の歴史を作ってきた方だったそうです。ところが、この冬に40歳の若さで、急死してしまいました。もともと体が弱かったらしいのですが、事務所を支えているという責任感が強かったために、無理して仕事を詰め込んだための過労ということでしたが、いや実は社長と反りが合わなくなって自殺したんだという話もあるそうです。
ともかくSさんは、前日まで元気だったのに、ある朝突然死んだ。何処でどうして死んだという話が一切無いのが、自殺説の元になっているんだろうとKさんは言っていました。

ある日、Kさんの仕事になかなかケリがつかなくて、とうとう深夜になってしまった。その時間になっても、デザイナーたちの何人かは残っていて、多少の心強さもあったのですが、さすがに終電の時間が近くなると、一人減り二人減りしてくる。
みんなが、3階に降りてきてタイムカードを押して、退社の挨拶をしていく。
そしてとうとう最後の一人が降りてきた。それがRさんだった。
Rさんは、「女性が一人で深夜まで残業してるのはよくないから、終わるまで待ってやる」といって、Kさんの背中の空いている机に座って、会社のパソコンでインターネットを始めたそうです。
いくらなれた仕事場とは言え、一人で仕事をしていると心細いし、深夜といえども時々電話などもかかってくるため、Rさんが付き合ってくれるのはとても心強い。Kさんは安心して仕事を続けたそうです。

しばらくすると、事務所のドアをコツコツと誰かがノックした。
時間も時間なので、誰だろうと不審になってRさんを見ると、彼はすっと立ち上がって、ドアの方へ歩いていきました。
ドアを開けると、そこには女性と男性が立っている。どこかで見た事のある人ではあるけれど、同じ事務所の人間ではない。
「あの・・・上のものですけれど・・・」
どうやら4階の事務所の社員らしい。どうりで見覚えがあるはずだ。4階の事務所は食品の輸入販売業で、社員が10人程度。いつも遅くまで仕事をしているので、夜食の買出しなどでたまに顔を会わせていたんです。
「どうしたんですか」
Rさんが聞くと、男性の方が少し苛立った様な口調で、
「5階でね、ドタバタしてるのって、アレなんなんですか」
「5階で?今ですか?」
「そう、あんまり酷いから上に行ったんだけど、真っ暗で誰もいないようだったから、こっちへ来たんですよ」
「5階はもう誰もいないんですよ」
「でも、凄い音でドタバタしてるんですよ。鉄筋コンクリートなのに、あんな音がするんだから、よっぽど暴れてるんじゃないの」
「おかしいな。オレが最後に出て、他には誰もいないはずなんだけど」
「ちょっと見てきてくださいよ」
男性は変わらず怒った口調ですが、女性の方は「お願いします」と低姿勢。
Rさんは5階の鍵を持って、廊下に出ました。Kさんも付いて行こうかと思ったのですが、廊下に出たところで女性に止められました。
「泥棒かもしれないから、行かない方がいいですよ。その代わり、ほら、坂本さん一緒に行きなさいよ」
坂本と呼ばれた男性は最初、何でオレがなんて渋っていましたが、女性二人の手前、行かざるを得ない。慌ててRさんの後を追って階段を昇っていった。
Kさんと女性は4階まで行って、輸入販売業の事務所の前で待っていた。
Kさんは、そこでふと気になって、女性に尋ねた。
「音がするのって、どの辺なんですか」
「ああ、こっちです」
女性は事務所のドアを開けて、中へ通してくれました。
同じビルの3階と4階だから、内部の作りは同じ。机の配置などレイアウトが違うだけ。するすると入って行って、事務所の丁度真ん中あたりまで来たときに、女性が天井を指差す。
「ここです・・・」
指先を追って見上げた途端に、ドン!と凄い音がした。まるで、音の塊が落ちてきたような衝撃に、思わず肩がすくんで悲鳴があがる。
しばらく呆然と見上げていると、また、ドン!
これは気になる。かなり気になる。ただでさえKさんは好奇心が旺盛だから、なおのこと。
自分も現場に行ってみようと思って事務所から出たら、ちょうど男性二人が階段から降りてきた。
「どうでした?」
「いやあ、何にも無かったよ」
「でも、下ではまた音がしましたよ。凄く大きい音」
「うーん。分かんないよ。なんにも無かったし、あっちでは音なんかしなかったし・・・その音って、いつも鳴るんですか」
Rさんが坂本に尋ねると、坂本は「いやあ、今日初めてですよ」と言って首を傾げている。
「天井と床の間のパイプか何かが鳴ってるのかな。だとしたら危ないなぁ。管理人に言った方がいいかもしれないね。ウチの方から電話しますよ」
坂本たちはそう言って、事務所へ入って行った。
残されたRさんとKさんもまた、事務所へ戻った。
すると、戻るなりRさんが、更衣室に用はあるかと聞いてきた。
定時になったときに着替えは済ませてあるので、特に用は無いと答えると、そうならいい、と言ってRさんはまたインターネットを始めた。
それから30分も経った頃、またさっきの女性が事務所に顔を出した。
「管理会社には電話しておきました。明日担当者が見に来るそうですけれど、念のために警備会社が今夜一度見に来るそうです。私たちは帰ります。お騒がせしました」
「ああ、そうですか。お疲れ様でした」
警備会社が来るとは言っても、Kさんの仕事ももうじき終わりそうなので、状況に変化があったとしてそれを知る由も無い。多分、何にも無くて、自分にも無関係なんだろうなと思っていたら、Rさんがくるりと振り向いた。
「あのね、怖がらせるつもりは無いんだけど、一つだけ聞いていい?」
「なんですか」
「Kさんは幽霊とか信じるタイプ?」
「えー?怖い話は好きだけど、信じたくないんですけど」
「見た事はある?」
「無いですよそんなの。なんですか!5階に何か居たとか言うんですか!」
「いや、5階には何もいなかったよ」
「Rさんって、幽霊見えるんですか」
「・・・」
「見えるんですか?」
「幽霊見たとか言うと、キチガイとかノイローゼとか言われるでしょ、だから言ったこと無いんだよね」
「うわあ、やだやだ、どっかにいるんですか」
Rさんのただならぬ雰囲気にKさんは、パニックになりかける。普段は幽霊なんているはずが無いと思っている、いや、いないはずだと信じたい気持ちなのかもしれない。
ところが、誰もいなくなった事務所でそんな話をされると、いないはずだという自信が揺らぐ。
「幽霊なんて、そんなもの、無いですよね」
「無い、という事を証明する方法は無いんだよ」
「だってそんなの、いやいや、なに、この辺にいるの?」
「実は、さっきから・・・ここに・・・」
Rさんが、インターネットをやっているパソコンの液晶ディスプレイを指差した。思わずKさんは目を伏せる。いると言われてそれを見つめる勇気など無い。だが、生来の好奇心からか、あるいは恐怖の対象そのもののに対峙しないと、逆に怖さが増すからか、恐る恐る指差す先を見た。しかし、Kさんの目にはそれらしきものは何も見えない。ただ、ディスプレイが光っているだけだ。
「・・・何も無いですよ・・・ねえ」
「あ、そう・・・いや、それなら良かった。俺が思うにね、いわゆる霊能力ってやつはね、見えないからこそ霊能力なんだと思うんだ。霊から防御する力がちゃんと働いてるってことでさ。むしろ見えるほうが、能力が低いってことなんじゃないかなと思うんだよ」
「・・・ちなみに、何がいるんですか・・・」
「いやあ、見えないなら知らない方がいいよ」
「教えてくれないと、逆に凄く怖いんですけど」
「あのね・・・ディスプレイの上から、Sさんの顔が半分にゅっと出てて、喋ってる」
「え?Sさん?Sさんがいるの?」
そんなこと、信じられない、信じたくも無い。
「それで、何を喋ってるか分かるんですか・・・」
「うん・・・凄く小さい声なんだけど・・・」
落ちない、落ちない、落ちない、落ちない・・・・って、ずっとそればっかり言ってる。
Kさんの腰から、ガクッと力が抜けたそうです。
Rさんは、「こんなこと他の人には言わないでね、常識が無いって怒られるし、話してもどうにもならないことでしょ。多分、Sさんも、そのうちいなくなると思うから」そう言っていたそうです。
その後、Rさんからは、Sさんがいなくなったという話は聞いていないそうです。
そしてまた二人とも、Sさんの言う「落ちない」の意味するところにも、全く心当たりは無いそうです。

この話も、落ちないまま終わりです。
おアトがよろしいようで。
posted by 肉王 at 04:00| Comment(3) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月28日

他人様の方が正確にキミを評価しているよ

ボーイズandガールズ、夏だな。
気をつけろ、夏はモノがすぐ腐る。
それを食べると腹を壊すぞ。

朝方に、厭な夢を見てしまった。
オークションやアマゾンで、続々と悪い評価を入れられる夢だった。更新ボタンを押すたびに、10・20と悪い評価が増えてゆくのだ。
「違うものが届いた」「値段が高い」「落書きがあった」「クソ」「ミソ」「死ね」「殺す」・・・。
ハッと起きて、夢だったことを知ったが、それから店へ行ってパソコンを開くまでは厭な気分が残っていた。

他人様の下す己の評価というヤツは、自分が思っている以上に的を射ているもので、普段は意識していない実体を思い知らされたりすることがある。
若い頃は、他人から下される評価なんか絶対に納得しなかったものだが、歳を重ねるごとに真摯に受け止められるようになってきた。今では、何をどう評価されても「ああそうなんだ」と素直に聞くことが出来る。そうして、自分の新たな側面を発見したりする。それはそれで楽しいものだ。

会社勤めなどをしていると、周囲からの評価というものをある程度意識して振舞わないと、信用を失う。
「あの人は他人の意見を聞き入れないから・・・」
と言う言葉の裏には、「無能」とか「バカ」という意味がある。
人間も30歳くらいになると、悔しいけれど衰える部分に気がつき始めて、そこを認めるか認めないかで立ち振る舞いに差が出てくる。
自分に欠けている部分を素直に受け入れて、他人の力を借りる覚悟をすると、評価は上がる。そうなると、仕事は楽にこなせるようになるし、自分自身のスキルもアップするようだ。

しかし一方で、絶対に自らの衰えや未熟な部分を認めようとしない人間は、あっさりと他人から見下される羽目になる。他人から、後輩から、上司から見下されまいとする行為が、逆に悪い評価に繋がってしまう。
そうなった人間は悲しい。
技術に相当のものがあればまだしも、そういうタイプの人間は技術も大したことが無い場合が殆どなので、どんどん八方塞になってしまう。
ならばせめて実績でもあれば、それにすがる事も出来るのだろうが、実績なんて時と共に色褪せてしまうから、それにしがみついている様がさらに評価を下げる原因となる。
そうなった人間が、駄目になる速度は速い。
そうして、慌てて上司に媚びへつらう事となるのだ。
「でっへへへ、山本専務、今日はまた結構なネクタイでゴザイマスな」
「お、坂本君、分かるかね。これはイターリアのネクタイなのだよ」
上司に媚びるタイプは、後輩に辛く当たる。
「大竹よぉ、何だよこの書類の綴じ方。右肩じゃなくて、左肩で止めなくちゃダメなんだよ。やり直せよな」
「ええまあ。でも、山本専務は左利きなんで、専務の分だけは右肩で綴じてるんです。それに、坂本さんはこの会議に関係無いんで、触らないでもらえますか」
「何言ってんだよ、俺は山本専務の出る会議には必ず出席するんだよ」
こういうタイプは、頼まれてもいないのに突然会議に出席して、低レベルな意見を堂々と述べてしまうことが多いようで、さらに後輩から蔑まれる。だけれど本人は気がつかない。

上司の腰ぎんちゃくになって駄目になっていく人間には、必ず兆候がある。
まず、みんなで決めたルールを守らなくなる。
「じゃあ、この件は、AからBのルートを取って、Cに辿り着くことにしましょう」
と、せっかく決めたばかりなのにわざわざ逆のルートを取って、それを注意されると居直る。
「俺はCから行くことに決めたんだ」
「いや、だからね、坂本さん。それはAから行くって全員で決めたでしょ」
「でも俺はCからの方がいいんだ」
「そうすると、他の計画が無駄になるでしょ」
「じゃあ、俺が計画を組み直す」
そんなことまで言ってしまうけれど、結局は計画の組み直しなんか、いつまで待っても出来ない。
やれと言われると、元気にハイと答えるけれど、結局出来ない。
仕方が無いから山本専務が助け舟を出すことになるのだけれど、本人はそんなことにも気がつかない。

ルールを守らなくなったあとは、やたらと威張りだす。
しかも、上司の印籠を持ち出すような威張り方だから始末が悪い。どうかすると、俺の言葉は山本専務の言葉だと思え、なんて事まで言い出す人間もいるようで、こうなるともう大変。山本専務が、自分の知らないところで一人歩きしている状態。
「山本専務、Bの書類が上がりました」
「なんだって?俺はAの書類を頼んだはずだが」
「でも、坂本さんがBの書類にしろって言ってきましたよ」
こうなると、山本専務にとっても坂本は重荷になってくる。かといって、口で諭しても理解できそうも無いから、別な試練を与えることになる。
「坂本君、キミね、ラムネのビンにビー玉を入れるための資格を取ってみないかね。いやなに、ごく簡単な試験だよ」
「はい、頑張ります」
なんて言うのだけれど、結局いつまで経っても試験なんか受かりゃしない。なのに、試験勉強のためと称して仕事をサボったりするようになる。

例を挙げるときりが無いのだけれど、得てして無能な人ってのは、自分を実体以上に見せたがるようだ。どれだけボロが出ていても、絶対に認めない。あまつさえ、「俺はプライドが高くてね。言ってみれば、プライドだけで生きているのさ」なんていったりするから面白い。
なるほど、もうプライドしか残っていないわなぁ、と周囲からせせら笑われる。
だからオレも、そうやってせせら笑っていればいいんだ、とは思うのだけれど、ついついぶつかってしまう。
今日も、そんな客とケンカしてしまった。
分かっちゃいるんだけれど、カチーンと来る。
「おっさん、少しは気を使って喋れ」
こういうセリフ、客商売をしていたらあまり使わないセリフだ。
多分、なんとか言う居酒屋チェーンの社長が聞いたら卒倒するだろう。
でも、客商売とは言え奴隷じゃないから、怒るときは普通に怒るべきだと思う。でないと、自分の商売のときはペコペコとへつらって、よそへ行くと尊大な態度を取るような最低の人間になってしまいそうで、怖いのだ。
人生40年にもなると、自分がどう評価されているかもおおよそ分かっているから、それを裏切ることも時には必要で、全体的に甘い人間と評されている今のオレにとっては、それが「なんだコラァ」と怒ることなのだ。
これからはオレ、ガンガン怒っていくよ。
コルァ!同業者ドモめー後進に道を譲らんかーい!いつまでもグズグズと生き残ってんじゃなーい!
posted by 肉王 at 02:10| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月23日

割り勘?それはダメだ。 今日ここでカネを払うための努力が水の泡になる。

このところの雨が急に上がって、今日はやけに蒸し暑い。
オマケにW氏などもわざわざ訊ねてきてくれたので、なお暑苦しい。
こんな負け犬の古本屋になんぞ御用でっか。冷やかしなら帰っとくなはれ。負け犬は負け犬なりに忙しいんや。負け犬なりに忙しいんや。
なにせ最近パソコンがずっしり重くて(重量が増えたわけではなくて、動きが遅くなった)、仕事に差障りがあるのんや。ああ、イライラするわ。ほんま、やってられへんわ。

小学校低学年から5歳くらいの子供三人が来店。
「古本屋って怖くなかった」
「怖いと思ってたのか?」
「うーん、不気味なところだと思ってた」
なかなか捉え所のいい子供だ。キミは結構鋭いぞ。
子供に「不気味なところ」と認識されていると言うことは、古本屋として成功していると言うことだ。もちろん、経営的にはマイナスだが。
「古本屋怖くない。面白いし、本が安い」
そうだ。怖くないよ。おじさんは子供には興味ないからね。でも気をつけな。そこの端っこで煙草吸ってるおじさん、あれは元古本屋なんだけど、アレはとっても危険だからね。子供や老人の財布だって平気で狙うんだ。でも、こっちのおじさんは大丈夫。20代のOLにしか興味ないから。
posted by 肉王 at 01:49| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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